

























町の奥に大らかな空隙をつくる
飛騨高山の城下町として発展した古い町並み界隈と高山駅の、ちょうど中間を南北に貫く旧国道沿いにある町家の改修である。敷地形状は所謂うなぎの寝床といわれる間口が狭く奥行きが長いもので、長手方向に開口部が設けられないため日中でも照明がなければ生活ができないほど暗かった。この敷地形状ができた変遷としては、南側に建つ日赤病院が1899年(明治32年)に設立され、その約20年後の1921年(大正10年)前後に前面道路が国道として整備されたため、その通り沿いに商店街として店舗兼住宅が林立したという。どの住宅も街路側に店舗、奥に生活空間という構成である。
多雪地域である飛騨高山では、雪を搬出しにくい中庭は敬遠される傾向にあるため、この敷地形状の場合採光はほとんど獲得できていなかった。また、裏側の隣地に雪を落とすことのないよう通りに向かって長い片流れ屋根となっており、棟の最高高さは約9mもあった。
そこで敷地奥の2階和室と小屋裏を解体して吹抜けをつくることで、この細長い敷地の最奥に光で溢れるアトリウム空間をつくることにした。大きなキッチンカウンターを設けたダイニングに、階段を緩やかな勾配として新設、2階のシアタースペースと立体的なワンルームとすることで、明るい光に満たされた風通りのよい空間となる。建て込んだ町の奥に、空間要素を付加するのではなく、引き算をすることで大らかな空隙が浮かび上がった。
北側に設けた階段状の連窓は、採光の必要な1階和室と2階廊下、吹抜け上部という具合に平面計画と合致した場所へ光と風を届けると共に、町並みに微かなユーモアのある表情を提供する。町の歴史的文脈を尊重すると共に、老朽化した建物を治癒し、現代的な生活に合わせ住環境を更新する作業は、臨機応変な設計能力が問われ、骨の折れるものだが、全国各地に数多ある空き家改修のひとつのケーススタディとなることを目指した。
所在地:岐阜県高山市
主要用途:宿泊施設
2024. 11月 竣工
敷地面積:94.90 m²
延床面積:64.74 m²
規模:地上2階
主体構造:木造
構造監修:車戸設計
施工:Total Reform
Location: Takayama-city, Gifu, Japan
Function: Accommodation
2024. 11 Completion
Site Area: 94.90 m²
Total Floor Area: 64.74 m²
Stories: 2
Structure: Wood
(photo: Tomoyuki Kusunose)





