























ササ断熱について
生命力の強いササは、伐採後の山を覆い尽くすとその他の広葉樹の稚樹が育たず、単一種目の笹山となってしまう。林道整備もササ刈りから始めなければならないことも多く、ササは山仕事の厄介者と言われている。そこでササに価値を生むために、乾燥・粉砕しチップ状にしたものを断熱材として活用した。県生活技術研究所にて分析したところ、グラスウールと同等の断熱性能が認められた。このササの活用法が、全国津々浦々、里山保全活動を少しでも活性化させる一助になればと考えている。

郊外の田園風景に溶け込む異質な輪郭
岐阜県可児市中心部から愛知県境に向かう谷筋沿いの、周囲を田畑に囲まれたのどかな敷地に建つ、塗装業者の新社屋計画である。求められたのは、事務所・倉庫が入る既存母屋を残しつつ、老朽化した車庫を解体し、客を招き入れる商談スペース、塗装見本などの展示スペースや新たな事務スペース等を新設することであった。建主の職種的にインダストリアルな使われ方をすることや、施工者の得意な工法を加味した結果、鉄骨造を最適な構造形式として選択した。しかしながら、果樹園と田畑に挟まれたこの三角形状の敷地に、重量鉄骨を用いて単純にスパンの大きな屋根を架けることは周辺環境に対して粗暴な建ち方になりかねないと感じた。そこで、日本人に馴染みの深い尺貫法に則った1.5間(2.7m)グリッドを、敷地形状や作業用トラックの動線等を考慮し東西南北を軸として敷いた結果、1.5間グリッドを基調にした「く」の字平面を導いた。一般的な鉄骨造よりもスパンを小さくすることで、柱の断面寸法は50〜100mm角程度となり、手で握れるほど繊細で身体に寄り添うような構造体が建ち上がる。
雨水の処理を考慮すると南側の水路へ向けて片流れ屋根とするのが妥当であったが、屋根下が暗くなることを避けるため、南北軸に沿って屋根にスリット状のトップライトを設けることにした。雨仕舞いを考慮してその部分を高く設定した結果、空に向かってめくれあがったような逆アーチ型の屋根形状が生まれた。
私たちが活動拠点とする岐阜県は面積の8割以上が森林が占めており、その豊富な森林資源・身の回りの里山資材を建築へ活用できないかと、常日頃実際に田畑や山仕事を実践しながら模索している。今回は建主の多大なる理解の元、数年前から試みていたササを使用した断熱材を自分たちで製作し、ミーティングスペースの内外装に現れるように使用した。通常、断熱材は石油由来の工業製品であるが、ササならば日本全国広く分布しており、誰でも入手しやすい。製作も用意であるため、建主自らが交換し維持管理を続けていける。建築をブラックボックス的工業製品から、自分たちが主体的に関われる対象へと付き合い方を和らげていくことがこれからの建築を考える上で重要な一つだと考えている。敷地環境から導かれた構造形式・屋根形状、地場の里山資源活用のためのササ断熱壁など、本計画を取り巻く諸条件に素直に向き合い、自然に則した課題解決を積み重ねた建築は、里山風景に調和しつつ、異質なシルエットを浮かび上がらせるものとなった。
所在地:岐阜県可児市
主要用途:オフィス・ガレージ
2023. 12月 竣工
敷地面積:116.3 m²
延床面積:70.54 m²
規模:地上1階
主体構造:鉄骨造
構造設計:円酒構造設計
施工:板垣建設
Location: Kani-city, Gifu, Japan
Function: office, garage
2023. 12 Completion
Site Area: 116.3 m²
Total Floor Area: 70.54 m²
Stories: 1
Structure: Steel
(photo: Tomoyuki Kusunose)