土蔵と補う増築 / Earthen storehouse and complementary extension

所在地:岐阜県高山市
主要用途:専用住宅
2021. 11 竣工
敷地面積:327.06 m²
延床面積:366.40 m²
規模:地上2階
主体構造:土蔵造+在来木造

Location: Gifu, Japan
Function: House
2021. 11 Completion
Site Area: 327.06 m²
Total Floor Area: 366.40 m²
Stories: 2
Structure: Wooden

土蔵の長所を活かし、足りないものを補完する

 「築150年の土蔵を壊し家を建てることになったのだけど、立派な梁があるからもらってくれないか。」と言う相談を受けた。この土蔵は飛騨高山の伝統保存地域である古い町並の南端部、市街地を流れる宮川沿いの小道に面し、景観の美しさから写真を撮る人々を多く見かける場所にある。この伝統的風景を保存・更新し、歴史をつなぐことは、この地で建築に関わる者として当然の使命に思えた。そこで解体を止めるよう説得し、長年物置となっていたこの土蔵を住宅として転用する本計画が始まることとなった。
 敷地とその周辺を観察して気付いたのは、歴史的価値が高いとされるこのエリアは高密度に町家が密集しているため、日当たりや風通しが悪い傾向があることである。また、一尺の厚みの土壁で構成された蔵は、高い防音性能を持つものの、住空間とするには暗く、光や風が不足していた。そこで、蔵に隣接して存在した朽ちかけた小さな土蔵(昔は味噌や漬物の貯蔵庫だったという)を解体することで手に入れた3.5坪程の小さな土地に、太陽を捕まえるように背の高い増築をすることで、光と熱を取り込み土蔵内の空気を動かすことを試みた。
 夏期は、最上階の建具を開放することで重力換気を促し、宮川からの冷涼な風を土蔵に穿った窓から取り入れる。反対に冬期は、サンルームに集まる暖気を天井部から吸い込み、土蔵の一階床下へ送風する。床下エアコンによる暖房も適宜併用し、蓄熱性能の高い土蔵内部で保温することで、飛騨のような寒冷地でも快適な住環境を生み出すことが可能となった。
 この計画の発端時と同様、時代にそぐわなくなったと解体されてしまう土蔵や古民家は全国無数に存在する。実際、難易度が高く手間の掛かるこの土蔵の施工は一年という歳月を要したが、経験値に富んだ大工技術と建主家族の辛抱強さに支えられ、無事完成を迎えることができた。不足するものを補い、現代の暮らしへとアップデートすることで、伝統建築が紡いできた尊い時間を一つでも多く次世代へつなぐことができればと切に願う。

半径5km圏内で構築する産業連関

 間伐材の多くは木質燃料として利用するが、中には立派なものも採れる。それらを建材として利活用するため、設計者自ら建材を作り活用している。活動拠点(設計事務所と木材集積場)から半径5km以内の近隣の製材所や加工施設と協力体制を作り、製材・乾燥・2 次加工などを有償で依頼し、様々な製品に仕立てている。今回は新しい試みとして、事務所から徒歩1分の山林で採れた樹齢130年のモミを階段・ベンチ・洗面台などに使用した。比較的柔らかい樹種であるため、あまり建築には使用されていないモミだが、このように厚めに挽いて使用することで、十分に価値があることを示したかった。

・2024年日本建築学会作品選集新人賞 (2024)
・第40回 住まいのリフォームコンクール 上位賞 “公益社団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センター理事長賞” (2023)
・日本建築家協会 JIA東海住宅建築賞 最優秀賞 (2022)
・第54回 中部建築賞 入選 / Chubu Architecture Award (2022) [ link ]
・ウッドデザイン賞2022 / JAPAN WOOD DESIGN AWARD 2022 (2022)
・日本空間デザイン賞2022 サステナブルデザイン賞 / KUKAN DESIGN AWARD 2022 Sustainable Space of the Year (2022)
・the AR House awards 2022, shortlist (2022)
・令和4年度 高山市景観デザイン賞 / Takayama city townscape design award (2022)

・新建築住宅特集 2022:04 掲載
・日経アーキテクチュア 2022年09月08日号 掲載 [ link ]
・The Architectural Review 掲載 [ link ]
・JIA建築リノベーションアーカイブ.com [link]

(photo: 楠瀬友将)

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